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​船体迷彩塗装の考察

​日本の空母の船体側面には緑系の迷彩塗装がされていたことで周知の事実となっている。その根拠となる資料を確認したのでそのまとめとして記録する。

迷彩原簿

もっとも確認しやすい資料として、第三陸軍技術研究所の「迷彩原簿」がある。これは国立公文書館「アジア歴史資料センター」でいつでもインターネットで閲覧可能であり、原本は防衛省防衛研究所図書館で閲覧可能である。この迷彩原簿は陸軍が作成したものであるが、輸送船の迷彩を研究するにあたり、海軍航海学校でおこなった「船舶迷彩実験」の報告書が添付されている。その内容から空母迷彩を推測できる。推測としたのは、この迷彩実験は輸送船を対象としたもので、空母ではない。なので、他の資料と照合する必要がある。

米海軍テクニカルミッション

これは、アメリカ軍が戦後に日本の軍事技術を調査したときの資料で、その中に迷彩に関する報告書がある。

分類番号X-32が該当する。これもいつでもインターネットで閲覧可能となっている。

この内容の概略を示したのが「歴史群像 太平洋戦争シリーズ 22 空母 大鳳・信濃」の付録にある。

​英文で空母の迷彩実験(主に飛行甲板)の記述もあるが、日本語の原本は公開されていないか、紛失?

​資料からみる【輸送船】の迷彩

迷彩原簿にある船舶迷彩研究実験の成績報告書(海軍航海学校)は、読めないわけではないが、手書きの漢字とカタカナで書かれており現代人には読み難いものであるので、PDFにまとめたものをUPした。

(一部省略あり)

要点をまとめると、一号色から五号色の5色と二号色と五号色を白を1:1と1:5でそれぞれ混ぜ合わせた4色、合計9色で実際に輸送船に塗装を行い、通常のネズミ色塗装と比較実験をした。結果、二号色系と五号色系が優秀とされた。ここでの色番号は仮であったが、結局は二号色系が採用となり、外舷二号塗料として採用されたようだ。仮番と正式番の二号は偶然の一致だったと思われる。

「三技研報一三六号 迷彩(船舶)研究報告」にはカラーで塗装要領が示されており下図のような絵である。二号色水線は赤色水線塗料の代用品とあるが、これは輸送船が空積載の時に、喫水線下が見えるので艦底の赤色を隠す為か?潜水艦から見たときの水平線に溶け込ませる為か?

図の原本は防衛研究所図書館で閲覧できるし、「日本海軍の航空母艦 大日本絵画」にカラーで載っている。

​さて、この緑系の迷彩パターンは何を目的としているのだろうか?海軍航海学校の報告書にも目的らしき文脈が散見されるが、もっとも的確に述べられているのは、陸軍がこの迷彩を小型船に適用する場合は、不向きであることを述べる文章にあった。​「三技研要第一八八号 迷彩(船舶)試験要報」である。その部分を抜粋する。

海軍船舶迷彩法は色の明度に於いて相応適応するも、色相および純度に於いて適応性少し。即ち色相は緑味に過ぎ、純度やや高きに過ぐ。特に陰影を除去し舟型を平面化し、以って背景に没入するの目的からすれば着想は良きも、明度差の配置の点に於いて未だ不充分なる点あり。(原文は片仮名)

つまり、カウンターシェード迷彩であったようだ。色も陸の背景重視の緑系である。

迷彩実験の方法の疑問点

多くの情報を得られる海軍航海学校の船舶迷彩実験の報告書であるが、実験方法に疑問を感じる部分がある。

実験によると、迷彩を施した実験船を太陽と逆光になるように観察していることが大半である点である。

逆光だと船体は黒っぽくなり海上では目立つと思われる。しかし観測者の評価は上々である。

次にCG合成した写真を示す。沖合約5kmに停泊する巡視船を逆光撮影し、両側に迷彩をしたCG船を配置した。

観測者が述べるような結果には残念ながらならなかった。

さらにCG合成した写真を示す。沖合約2kmある直径50m程度の島を順光で撮影し、両側に迷彩をしたCG船を配置した。うまく背景に溶け込んでいるだろうか?

注意:色や明度などはCG作者の想像が多く含まれている

これらの結果から、日本軍の船舶迷彩はしないよりマシ程度で効果には疑問が多い。

五号色とは?

さて、実験で二号色とほぼ同等に優秀であった五号色はどのような色であったのか?実験報告書にカラーサンプルの添付欄はあるが、実際には添付されていない。そこで実験報告の観測者の感想を抜粋し推測する。

(PDF資料で、主に赤文字で示した部分の要約)

・水色に近い。舷側下部水面近くの塗装に有効。

・太陽の光で反射すると白青く見える

・五二号色は天空とほとんど同色(檣上部は二二号色より有利)

・二一号色と五一号色は光の反射で白く見える時がある

・二号色、五号色は空と同色

・背景の山緑色に似ている

・天空を背景とする場合ほとんど船体を確認できない。

また、同報告書の迷彩塗料配合割合表によると、二号色よりも紺青の割合が多く、且つ黄色が少ない。

このことから青系だと推測される。

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